シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

ぼくらのスロープ計画 〜薪棚は突然に

わが家はグランドフロア、メインフロア、ロフトの三層構造になっている。
コンクリート基礎を2m立ち上げ、そこからログ材を積み上げているため、グランドフロアのあるログハウスに仕上がっているのだ。

住み心地は良好だ。
グランドフロアのおかげで、ログ材は雨だれや湿気の影響を受けにくいし、地面からの冷え込みを遮断する断熱効果もある。
それに土足で出入りできる土間だから使い勝手もよく、グランドフロアはオートバイのガレージや工房、物置、僕の仕事部屋としても活用している。

その上の階、生活空間であるメインフロアにつながる階段は3カ所ある。
グランドフロアからメインフロアへ昇る内部階段、庭からウッドデッキに昇る正面の外階段、そして北側の道路にも直結した、西側の外階段の3つだ。

どの階段もまんべんなく利用していて、使い勝手に不満を感じたことはないが、数年前から妻が「スロープをつくりたい」と言い出した。
理由は犬の介護対策である。
わが家の犬たちは2階のウッドデッキで暮らしているために階段を昇り降りしなくてはならない。
ゴールデン・レトリーバーのニホも、ラブラドール・レトリーバーのサンポも、サンポの娘のトッポも、晩年は足腰が弱って階段の昇り降りに苦労した。

現在一緒に暮らしている柴犬のカイくんは12月で13歳。
ラブラドール・レトリーバーのセンポはまだ3歳だが、先代の犬たちがそうだったように老後は階段の昇り降りに支障をきたすはずだ。
道路に直結した外階段は経年劣化で朽ちてきているから、その階段を撤去してスロープにつくりかえたい。

妻にそう要望されたものの、なかなか実行には移せないまま時は流れた。
しかしこの秋、ようやくスロープ建築にとりかかれる算段がついた。
ログハウスをつくったときの棟梁役、本田くんが現在暮らしている広島からはるばるやってきて、スロープ建築に携わってくれることになったのだ。

基本プランは妻が担当。
本田くんとアイデアを練りながらスロープ建築を進めていく。
もうしわけないけど、僕は本業の取材と執筆活動に追われているため、作業には参加できない。
そのぶん、21年前にログハウスづくりを手伝ってくれた石田が「僕も手伝いますよ。いまの仕事は休みが多いから」と名乗りを上げてくれた。

骨組みは木材ではなく、単管を使うことにした。
強度と耐久性に優れるし、自在のジョイントを組み合わせることでスロープのような斜めの構造物にも対応できる。
何かと応用が利く優れた部材なのだが、難点もある。
見映えが悪いのだ。
いわば建築中の足場だから、かっこよくないのである。

しかし、解決策が見つかった。
単管もジョイントもすべて塗装してしまえば印象が変わる。
しかもサビ予防にもなる。
専用塗料を購入して塗ってみたところ(石田とチームシェルパの常連、中島くんががんばってくれた)、予想以上に見映えがよくなった。
色を艶消しの黒にしたことも功を奏したと思う。
工事現場の足場の雰囲気を脱することに成功した。
調子に乗った妻は、単管の先端に被せる黄色のキャップを赤色や水色に塗装。
野暮ったい単管のイメージが払拭され、遊び心のあるフレームが組み上がった。

雨の日も快適に使えるようにスロープは屋根で覆いたい。
雪が積もったら滑って歩けなくなるから屋根は絶対に必要だ。
妻はそう考えていたが、細長いスロープにどのようなデザインの屋根を被せるべきか、具体的なプランは思いつかなかった。
しかし、家の前の畑に設置してあるトマト用のアーチを見てひらめいた。

「あれでいいんだよ!」
サイズも軽快なデザインもスロープの屋根にちょうどいい。
アーチはJAの直売所で注文し、その上に被せるビニールは農業用具専門の通販で購入。
デッキ材はウエスタンレッドシダーの2×6材を張り、その上にトマト用のアーチが斜めに連なる独創的なスロープが完成した。
ビニールの耐久年数は10年くらいとのことだが、大雪が降ったら破れる可能性もある。
でも、そのときはそのとき。
次は別の素材を試せばいいだけの話だ。

完成したスロープの出来栄えはよかった。
柴犬のカイくんもラブラドールレトリーバーのセンポも臆することなく普通に歩いてくれたし、近所の子供たちにも滑り台のようなデザインがウケた。
自転車でスロープを下って遊んだ子もいたくらいだ(最初に試したのは僕だけど……)。

妻も満足げであったが、新たな提案をした。
「スロープの下が空いてるでしょ。薪置き場にいいんじゃない?」
たしかに。
ビニールの屋根が被さっているわけだから、スロープの下は雨に濡れることがない。
南向きだから陽当たりもいい。
すでに単管でフレームが組んであるわけだから簡単なアレンジで棚になるはずだ。

これくらいの作業なら時間も手間もかからない。
スロープ建築を手伝えなかったことへの罪滅ぼしもあって、僕ひとりで作業にとりかかった。
単管の根太を追加して、その上にコンパネ合板を張り、側面もコンパネ合板を設置して壁にする。
そう考えていたけど、ホームセンターへコンパネを買いに行ったときにアイデアが浮かんだ。

コンクリートの壁や床などを張るときに補強材として用いるワイヤーメッシュが資材売り場にあったのだ。
コンパネよりもワイヤーメッシュのほうが、耐久性も強度もある。
サイズ的にもちょうどいいし(1m×2m)、価格もわずか380円でコンパネ合板の3分の1程度で済む。

ワイヤーメッシュを3枚買った僕は、フレームのサイズに合わせてワイヤーメッシュをカットし、底と側面に針金で固定した。
なかなかいい。
どちらも建築資材だから、組み合わせに違和感がない。
艶消しの黒で塗装した単管とワイヤーメッシュが似合っている。
それに隙間が空いていて通気性がいいから、薪を乾燥させる棚としても機能的に優れる。

新たな薪棚はできたけど、そこに収納する薪はとくになかった。
わが家は薪棚が敷地のあちこちにあって、薪の在庫が潤沢だからこれ以上薪を増やす必要もないのだ。
そこで、新たにできた薪棚には外の焚き火や竪穴式住居で燃やすための薪を置くことにした。

近所の友人から伐採したブドウの枝をもらったばかりであった。
ブドウの枝は曲がりくねっていて薪ストーブ用の薪としては使いにくいが、焚き火用なら短くカットする必要も、割る必要もない。
サイズ的にもスロープの下の薪棚は、割らない薪を積むのにちょうどいい。

軽トラを使ってブドウの枝や、森の倒木、廃材などを適当に並べたが、頑丈な鉄のフレームはラフに積んでもびくともしないし、見た目もかっこいい。
単管やワイヤーメッシュにしても、スロープのアーチにしてもそうだけど、木造建築とは無関係な素材を有効活用できた点が痛快で、木工のDIYとは別の満足感をおぼえた。

そしてスロープの薪置き場が完成した翌日。
まだ11月だというのに、季節外れの雪が積もった。
スロープのソフトな屋根には雪が積もったけど、スロープには積もっていない。
今シーズンは雪が多いかもしれないけど、ビニールを破ってしまうくらいの大雪が積もらないことを祈る。
破れたら張り直せばいいだけの話だけどね。

 

Photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は1月下旬です。

 

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