屋根のてっぺんから
抜けるような青空が広がった11月初旬。
わが家の秋の風物詩、薪ストーブの煙突掃除を行なうことにした。
おそらく煤はあまり付着してないと思う。
でも煙突の点検は必要だし、ベストの環境でシーズンを迎えたい。
それに毎年の恒例行事でもあるから、
煙突掃除を終えないことには薪ストーブを点火する気になれない。
煙突掃除は薪ストーブライフをスタートする前の儀式ともいえる。
年末に大掃除を終えてフレッシュな気持ちでお正月を迎える気分に近いかもしれない。
とはいえ、年末の大掃除に比べたらわが家の煙突掃除は格段に楽だ。
そのわけは煙突が室内から室外までストレートに延びていて、屈折箇所がないこと。
そして屋根に上がりやすく、作業のポジションを確保できる場所があるからである。
まずは脚立をウッドデッキに立て、
デッキの屋根にアクセスして最高所のドーマーの屋根まで上る。
煙突は屋根の棟近くに突き出ていて、傾斜が緩やかなドーマーの屋根から手が届く。ドーマーに身を置いた、安全かつ楽な状態で煙突掃除が行なえるのである。
煙突には野鳥が侵入しないように金網を被せてあり、
それを外すことからはじまるのだが、すぐに作業へ移る気にはなれない。
屋根のてっぺんから眺める景色は格別だ。
毎年思うことではあるけれど、視線が高くなると身近な場所でもこんなに新鮮に感じられるのか、と感心してしまう。
鳳凰三山、甲斐駒ケ岳と続く南アルプスの稜線。
川岸にそびえるハリギリの巨木。
クリやヤマザクラ、コナラが茂る広葉樹の森など、
屋根からの景色をひととおり眺めては
「この土地に暮らしてよかったなあ」と
僕はいつものことながら歓びを実感するのである。
さて、煙突掃除をはじめるとしよう。
二重煙突のトップを外して、そこへ煙突掃除用のワイヤーブラシを挿入していく。
柄をジョイントして、奥へ、奥へとワイヤーブラシを押し込む。
行きどまったらワイヤーブラシを引き上げ、再び挿入する。
それを4回ほど繰り返したら、煙突掃除は終了。
煙突のトップを被せ、ワイヤーブラシ類を撤収して慎重に屋根から下りる。
作業開始から片づけるまで、30分も経っていない。
スムーズ&スピーディー。
わが家の煙突掃除を英単語で表現するとしたら、そうなる。
薪ストーブの神様
煙突掃除のあとは室内に移動して薪ストーブ内に落ちた煤の除去作業と、
薪ストーブのメンテナンスに入る。
薪ストーブを設置しているのは、リビングのほぼ中心だ。
18年前にログハウスづくりをしたときに同時進行で炉台をつくり、
レゾリュート・アクレイムを設置した。
炉台は完全なるオリジナル。
妻が「こんな感じにしたい」とログハウスづくりのリーダーだった本田徹くんに伝え、廃材利用のスペシャリストでもある本田くんがイメージどおりの自然木や古材を調達して炉台を完成させた。
炉台の床に敷き詰めてあるのは、僕らで拾った自然の石だ。
セオリーからは外れているが、壁や床と炉台の間には隙間を確保して熱を遮断しているし、防火対策は施してある。
大胆だけど細心の注意を払ってつくりあげた、世界にひとつだけの炉台なのだ。
その炉台からまっすぐ誇らし気に延びた長さ4mの黒い煙突。
この煙突を手配して設置をアシストしてくれたのは何を隠そう田渕義雄さんである。
18年前、ログハウス建築中にわが家に立ち寄った田渕さんは、
新しいレゾリュート・アクレイムを目にして和やかな表情になった。
まだ30代前半の若造だった僕の田舎暮らしに対するスタンスを、
田渕さんは薪ストーブによって推し量ったのかもしれない。
ホームセンターで売られている安価な薪ストーブではなく、
バーモントキャスティングスの薪ストーブを購入したことで
僕を評価してくれたんだと思う。
田渕さんは必要な煙突をわが家まで運んできて、設置作業を指導してくれた。
「いい場所に設置したね」と、
オーソリティの田渕さんからお墨付きをもらったことで、
僕は胸を張って薪ストーブライフのスタートを切ることができたのである。
あれから18年。
レゾリュート・アクレイムは何のトラブルもなく、
毎シーズン快調に働き続けている。
おそらく今年も問題ないはずだ。
そう信じて煙突掃除を終えたレゾリュート・アクレイムのフロントドアを開けると、
案の定、煤はあまり落ちてなかった。
乾燥した薪を適量使い、ストレスなく完全燃焼している証しともいえる。
専用のホウキで煤をかき出してから、ダンパーの向こう側に落ちた煤や、
たまった灰をバキュームクリーナーで吸い取る。
煤や灰を吸い取ったあとは、薪ストーブの細部をチェックするが、
とくに問題は見あたらない。
ガスケットもまだ大丈夫だし、レバーの緩みもない。
今年もこれまでと同じく、トラブルなく働いてくれるはずである。
ガラスをきれいに拭き、外部の溝にある埃も丁寧に拭き取る。
さらに炉台の隙間にたまった埃も掃除機で丹念に吸い取る。
数年前に「トイレにはキレイな女神様がいるんやで」と歌う『トイレの神様』がヒットしたけど、わが家には『薪ストーブの神様』がいるんだと信じたい。
「いつもいつも、温かき幸せをありがとうございます。今年もよろしくお願いします」
僕は薪ストーブを拝み、合掌した。
そして少量の薪を燃やした。
炎がすぐに起こり、煙突に煙がどんどん吸い込まれる。
よし、よし。いつもと変わらぬ燃え方だ。
今日はシーズン始めのウォーミングアップだからこれで終えるとして、
朝晩が冷え込むようになったら、本格的に燃やそう。
外は寒くても室内は幸せな温もりに包まれる、
薪ストーブライフの幕開けだ。
photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華
(編集部より)
設置に関しては、現在の施工基準と異なる場合があります。
*次回の更新は2014年1月下旬です。