田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

高冷地にいらっしゃい

クリスマス。
樅の幼木を伐る。クリスマスツリーを作る。
樅の小枝で、クリスマスリースを作ってドアに飾る。
樅の緑は日持ちがよくて、いつまでも緑。

♪年の始めのためしとて
 終わりなき世の めでたさに
 門松立てて 門ごとに
 祝う今日こそ 楽しけれ

 

 

クリスマスツリーと門松と。
クリスマスリースと橙とウラジロのお飾りと。
気候風土による素材の違いがあるだけで、同じ物だね。
宗教的なそれは、それ以前から培われてきた土着的な年中行事のパクリとしてある。
であってみれば、キリスト教の行事も、神仏のそれも、すべて祝って楽しんでしまう我々日本人はいとおかし。
馬鹿だなー、と思わないことがないでもないが……。
ともあれ、我々はムスリム過激派のISやアルカイダとは無縁だ。

安全保障の要諦は、敵を作らないことである。
中東やアフガンやアフリカの紛争に係わるな。
天津神国津神八百万の神等と共に聞食(きこしめ)せと恐(かしこ)み恐み申す。

 

 

暖かい年の瀬となった。
この時候には冷え込んで冠雪があるのだが、それがない。
夕暮れから降り出した雨も雪に変わらなかった。
もしやと思って、椎茸の原木を見回ってみた。
椎茸が顔を覗かせている。
去年もこの季節に、同じ事が起こった。

 

 

温暖化が確実に進行している。
大きな声では言えないが、寒い山に住み侍りければ、気候の温暖化はWHY NOT ?だ。「天は、我々に味方している」と、思わないでもない。

思うに、この温暖化傾向は止まらない。
日本一標高が高いこの山里に30年以上住んで、そう思う。
産業革命以来排出してきた化石燃料の二酸化炭素濃度が、この温暖化を加速している。
そうかもしれない。多分ね。きっと。
だから、温室効果ガス排出を規制してこの温暖化にブレーキを!
ごもっともな御託宣だ。
でもそれは、空虚なスローガンだな。
 ♪ウララ ウララ もうどうにも止まらない……。

 

 

今から五千年前、房総半島は島だった。
その証拠に、栃木県を流れる利根川の側で、縄文人の貝塚が発見された。
その頃、海無し県の栃木には海があった。
埼玉県にも海があった。
埼玉県の“埼(さき)”という漢字は、水涯という意味。
埼玉(さきたま=さいたま)は、海辺の土地の美称だ。

わたしが13年間借家住まいをしていた東京の郊外の国立市あたりは、多摩川の河口だった。
縄文人は武蔵野台地の崖の上に住んでいた。
干潮時に貝を採取して、美味しい暮らしをしていた。

我が川上村には、日本一標高の高い縄文人の村があった。
標高1500メートル、“天狗山縄文遺跡”だ。
この遺跡からは、素晴らしい世界遺産的縄文土器が数多く発掘されている。
思うに、この村の住人は暑い夏が嫌いな天狗だった。

 

 

縄文時代は、一万数千年つづいた。
縄文文化は、主に東日本と北日本で栄えた。
その中期にあたる5千年前は、特に温暖だった。
高冷地である我が八ヶ岳山麓には多くの村があり、繁栄していた。
芸術性の高い土器が数多く出土している。 

五千年前の温暖化は、どうしてだったんだろうか?
五千年前なんて、つい昨日のことだぜ!
なのに、その理由を誰も説明してくれない。
どうして?

日本人の85パーセントは沿岸に住んでいる。
沿岸には都市を造れる平地があるからである。
どうして海辺に平地があるのか?
そこは昔、浅い海の海底だったからである。

 

 

北極海の氷が溶ける。
冷たい氷水は比重が重いから深海に沈み、北極海深層海流となって地球の海を巡ってまた北極海に還る。
この循環が、沿岸の気候を穏やかなものにしている。
赤道地帯には深層海流の冷たさを運ぶ。
赤道地帯で温められた海流は、高緯度地帯の沿岸に暖かい海流を運ぶ。

北極の氷が溶けてなくなる。すると、深層海流大循環が止まる。
赤道地帯の沿岸は灼熱化する。高緯度地帯の沿岸は寒冷化する。
グローバルな大気の循環が滞って、大陸の内陸部が寒冷地化していく。
高山が分厚い雪に覆われる。
その雪が氷河となって流れだし、大地を覆う。
それが、氷河期の到来である。

 

 

この時代には、低緯度地帯の砂漠は緑に萌える。
花々が咲き競い、楽園になる。
人々は手に手を取りあって、輪になって踊る。

温暖化による洪水期と、寒冷化による氷河期と。
氷河期には海水位は後退する。
その繰り返しが、地球の気候の歴史だ。
人類は、そのはざまで、あっちへ行ったりこっちへ来たりしていろんな文明を築く。

 

 

今ある中東やアフガニスタンの混乱は、気候変動に伴う乾燥地帯の砂漠化が事の始まりだ。
人々の暮らしが貧困化して、内政が不安定になった。
そこに、大国の覇権主義と政治や宗教的要素等々が複雑に絡まって、戦国時代的内戦状態に陥っているんだ。

昔、我々は海辺の平地に都市という生活環境を発明した。
しかしその時から、環境汚染や台風や洪水や地震や津波に悩まされた。
そこで、なんとかしようといろんな試みをしてきた。
最良の方法は、そこから逃げ出しちゃうことである!
五千年前の縄文人みたいに……。

 

 

みなさん! 高冷地に移動しましょう。
マウンテン・ハイの冬はロマンチックだぜ。
水も空気も冷たくてクリーンだ。
この国の高冷地は、薪エネルギーの世界的宝庫。
このエネルギーは枯渇することがない。
加えて、ここの夏は天国。大地の実りも豊かだ。

中部高地の冬は、これからが雪深くなり冷え込む。
とはいえ、冬至はすぎた。
春はもう始まっている。

 降りつもる雪を友にて春までは
 日を送るべきみ山辺の里
       (西行 山家集)

 
Photoes by Yoshio Tabuchi

隔月連載。次回の更新は2月下旬です。

 



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