田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

ストーブシーズンの開幕

素晴らしい夏日がつづいた。
トマトが豊作だった。
9月になっても、ストーブを焚かない日々がつづいた。

 

9月の20日を過ぎれば、初霜が降っても不平は言えない高冷地だが、
まだそんな気配はない。
しかし、油断はできない。
霜降る夕べが、すぐそこまで来ている。

霜が降る光景を見たことがありますか?
それは、凍った霧の細かい粒となって、ミステリアスに深々と降り注ぎます。
そして、庭の野菜の大半は枯れる。木々の葉が色づく。

 

 

この秋は、見事な紅葉が期待できるのではないでしょうか。
台風の被害もなかった。

木々の葉がどうして紅葉するのか知っていますか?
それは、化学プラントとしての木の葉の立役者である葉緑素が、
秋になってその役割を終えるからです。
すると、木の葉から葉緑素の緑が退色します。
そして、紅葉がはじまる。

 

 

紅葉の、紅やオレンジ色や黄色や、そしてほのかな紫は、
木の葉の緑が変色するのではない。
それは、それぞれの木の葉が生まれながらに隠し持っていた、
それぞれの紅や黄色が表出した色としてあります。

そうであれば、人生のイブニングも美しい紅葉のようであれば……と思う。
密かに隠し持っていたそれぞれの綺麗な色に染まって、
みんながみんなそれぞれの個性に輝くべきだ……と。

 

 

今朝、綺麗な紅に染まった山桜の葉を見た。
夜露に濡れて艶やかな紅が、小石の上にあった。

「ねえータブチ君……いよいよ、ストーブシーズンの到来よ」。
頬を紅に染めた山桜の落ち葉が、そう言ってた。

 

 

みなさん、ストーブのメンテナンスをすませましたか。
恥ずかしながら、わたしはまだです。
でも、すぐに取り掛かります。

 

☆ストーブメンテナンスのチェックリスト

■最初に為すべき事は、煙道の掃除です。
屋根に登ってそれを為すときには、チムニーキャップを外して、
ブラシを静かに煙道に差し込んでいく。
時計回りにロッドをゆっくり回転させながら差し込んでいく。
ブラシやロッドの接合ネジは時計回転だからだ。
そうすることで、ブラシやロッドの接合ネジが外れない。
ブラシが煙道のスターターパイプまで届いたことを確かめながら、
ブラシを二往復させよう。

チムニーキャップの煙の出口には、クレオソートがこびり付いている。
わたしはそれを、細い枝木で静かに叩いたりこそぎ落とす。
キャップの防鳥ネットは、春まで取り外しておくべきだ。
防鳥ネットはクレオソートのカサブタを付着させやすいからです。

屋根を下りるときには、兼好法師が徒然草の中で書いているように、
地上に降りる最後の瞬間に危険が潜んでいる。
最後まで油断しないように。

■室内から煙道掃除するときには、ロッドを反時計回りで。

■キャタリティックコンバスターを装備しているストーブは、マニアルに準じながら掃除機でコンバスターと二次燃焼室の灰を綺麗に掃除する。

警告;電気掃除機で灰を吸い取るときには、48時間以上ストーブを焚かないこと。また、灰を吸った集塵バックは速やかに始末すること。集塵バックは、埋み火が再発火するための温床です。

■ガスケットの点検と交換
高温になる天板のガスケットは傷みやすいので、早めの交換を。

 
■ドア絞りを適切に調整しよう。

■クラシックブラックのストーブは、ワイヤーブラシで汚れや錆を掻き落とす。
それから、ストーブポリッシュで磨き上げれば新品以上のルックスになります。

 

みなさん!
ストーブメンテナンスを嫌がらないで。
毎年のメンテナンスを怠らないことで、
薪ストーブは何十年も元気に活躍しつづけます。

電気仕掛けのハイテク機器が、なぜメンテナンスフリーなのかを考えて下さい。
それらの機器は、保証期間が過ぎればたちまち粗大ゴミと化すように作られています。
それが、ハイテク機器におけるメンテナンスフリーということの意味です。

 

 

緊急提言!
バカテレ(=テレビジョン)のニュースが連日連夜、
尖閣諸島の領土紛争を報道している。
どうすればいいのか誰も何も言わない。
領土紛争は欲張りと欲張りの二律背反だ! 
 
尖閣は日本の領土でもないし、中国や台湾のものでもない。
尖閣諸島はアルバトロスの固有の領土だ!

Diomedea albatrus. 英名 Short-tailed Albatross.
漢字名 信天翁。 和名  ahodori (阿呆鳥)。

アホウドリという名前はよくない。恥ずかしい固有名詞だ。
この海鳥を捕殺してきたことの言い訳として、そう命名したんだ。
だから当方は、この鳥をアルバトロスと呼ぶことにする。

信天翁は、“空の使いたる翁”という意味だろう。
ラテン名のアルバトラスは“白い衣服をまとった”という意味のAlbatus に由来する。
種名のディオメデアは、トロイ戦争のヒーロー、オデッセウスの朋友Diomedesから。

アルバトロスは、翼開長2メートル以上に及ぶ美しい海の白鳥だ。
洋上を時速100キロ以上で滑空しながら、
一日に800キロの距離を移動することができる。
アルバトロス属は世界に13種。そのうちの3種が北半球に。

 

 

大空の使者たるアルバトロスに国境はない。
しかし、この海鳥は生まれ育った絶海の孤島に帰還して繁殖する。
今は伊豆諸島の鳥島と尖閣の北小島と南小島で、細々と自然繁殖している。

広大な太平洋上を自由に滑空するD.アルバトロスなれば、
この鳥を日本の固有種と呼ぶことはできない。
しかし、D.アルバトロスはJapanese endemic breeder(日本固有の繁殖種)である。

ニホンアルバトロスは、明治維新以降一千万羽以上が捕殺され、
羽毛布団と婦人の帽子の羽根飾りになった。
そして、絶滅した……と思われていたが、戦後、鳥島で数羽の繁殖が確認された。
そこで、愛鳥家たちによる献身的な保護繁殖活動が執り行われて、
現在は2000羽ほどにその個体数が回復した。

そのうち、尖閣では200〜300羽が確認されている。
アルバトロスの保護活動に従事しているみなさんに、心からの敬意を。

アルバトロスの主たる繁殖地である鳥島は火山活動が活発化し、
その繁殖が危ぶまれる。
で、もともとの繁殖地でもあった小笠原諸島の聟島に幼鳥が放鳥された。
その結果、7羽の帰還が確認されて、みんなを喜ばせた。

 

 

わたしが提言したいのは、こういうことです。
尖閣諸島は、ニホンアルバトロスのアルカディアなんです。
かつて、尖閣には人口200人の村があった。
棍棒を振り回して、アルバトロスを撲殺するためである。

尖閣の島々をアルバトロスに返還しましょう!
そして、その近海もまた、アルバトロスと海洋資源保全のために、
何人も近づくことができない永年禁漁区としましょう。
海底資源の探査ももちろん永久凍結とします。

数万羽の信天翁が、
尖閣の洋上をたおやかにソアリングしている光景を想ってみましょう。
アルバトロスの繁殖は冬です。
この季節には、尖閣の近海にアルバトロス観察船が近づくことが許されます。
日本人と中国人と台湾人と、それから世界中の人たちが、
鳥柱となって洋上をソアリングする空からの使者に喝采を送るためです。

平和とは、戦争と戦争の間に介在する騙し合いの一時期のことではない。
平和とは、尖閣諸島の上空に数万羽のアルバトロスが群れ飛ぶことです。

 

 

Illustration
田渕義雄&「薪ストーブの本」(晶文社刊)より

 

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