フォトエッセイ「写風人の薪焚き日和」

風のように自由気ままに撮り続けたい…カメラマンの視点から綴る日々の薪ストーブライフ

薪ストーブで縄文土器の神秘に迫る

 

昔も今も、欠くことのできない火のある生活。
今から一万年以上前、この火で人類最大の発明ともいわれる土器は焼かれていた。

 
山火事が収まり、その辺りに近づいてみると、
周りは黒く焼け焦げ、ゆるやかに煙が立ち上がっている。
焦げ跡からは木の実や逃げ遅れた動物の香ばしい匂いが漂ってくる。
一口食べてみると、
今まで生で食べていたものとは比べものにならないほどの味わいだ。
ある者が火種を取り、家に持ち帰った・・・。

 
火の起源はこんな状況ではないかと推測されています。
人々は火を獲得したことで生活は一変したことでしょう。
闇夜を照らし、身体を暖め、そして肉を焼く。
おそらく火は万能の神であったに違いありません。

やがて、人々は土を焼いて器を作り始めました。
縄目文様が施された縄文土器です。
土器の発明によって人々は「煮沸する」という素晴らしい知恵を身につけたのです。
縄文土器は、現代そして未来に受け継がれていく
人類最大の発明だとも言われています。

 

土器づくり

縄文人の素晴らしい創造性と美意識にはおおいに興味をそそられます。
そんな縄文土器づくりを初めて経験したのは20年前。
地元に著名な遺跡があり、縄文時代を体験するイベントを企画したのがきっかけです。

壮大な野焼きは深く印象に残り、
当時作った土器はいまだに煮炊き出来る土器として残っています。

 
縁あって再び土器づくりを始める機会を得、
今年の夏に野焼きをおこないました。
しかし、この野焼きに間に合わなかった土器があります。


これは縄文時代を代表する火焔土器に、
火の守り神「ドラゴン」を装飾しました。

火焔土器は装飾性豊かな形状から、
実用的な土器ではなく、祭祀的な目的に使われていたようです。

当初は自宅で野焼きするつもりでしたが、
ドラゴン土器といえば薪ストーブ。
薪ストーブを窯代わりに焼くことは無謀なことではありません。

何故なら縄文土器の焼成温度は普通の陶器に比べて低く、
粘土もその時代に近い素材をブレンドして作られているので
薪ストーブを普通に焚けば焼成できるのです。

 

薪ストーブで土器を焼く

野焼きもそうですが、いきなり焼き始めると割れてしまうので、
まず熱さに慣らす作業から始めます。

普段通り薪ストーブを燃やし、
これが熾きになるまで土器を徐々に近づけて熱さに馴染ませます。


ストーブ正面に置いたり、
更に温度の高いストーブトップで徐々に熱していきます。
この頃にはグローブをはめないと触れないほど熱くなっています。
 


炉内が熾き状態になったころ、フロントドアを開けて更に近づけます。
ここまでの慣らしで約3時間。
 


熾きの中心部を開け土器を炉内に入れ、フロントドアを閉めてそのまま約30分。
これで慣らしの段階は終わりです。

 
いよいよ本焼き。

土器を囲むように薪を積み上げて行きます。
あまり薪が長いと積みにくいので、30cm程の薪を用意しておきます。

 
後はいつも薪ストーブを焚く要領です。

撮影のため扉を開けていますが、通常通りストーブトップの温度計が260℃以上になったらダンパーを閉めて焚きます。
 


炎の中にドラゴンのシルエット。まさに神秘的です。
 


炎が小さくなった段階で焼きムラがあるようなら、更に薪を追加します。
熾きから自然に鎮火するまで炉内に入れたまま焼き上げます。
 


土器はかなり高温になっているので無理に取り出さず、
薪ストーブが冷めるのを待って取り出しましょう。

 

器を撮る

焼き上がったドラゴン土器を過去の作品と共に記念撮影です。


特別なライティング機材などは使わず、
窓から差し込む自然光で撮影したものです。

 
撮影現場の状況は、こんな感じです。

先日のコラム同様、ここでも黒のカラーボードを使用しています。
メインのドラゴン土器にはそのまま窓からの光を当て、
距離をおいた後方の土器にはボードで光を遮っています。
こうすることで背景の土器は暗く沈みボケてくるのです。

 土器に限らず立体物を撮るには光と影を読む力が必要になります。
ご家庭でも簡単に撮れるコツをコーヒーカップを例に説明します。

 

光の読み方

家の中で最も撮影に適しているのが、窓から柔らかい光が差し込む場所。
カップ(被写体)に対して斜めから光が当たる位置にカメラを構えます。

そうすることでハイライトからシャドーにかけて柔らかいグラデーションが生まれ、凹凸のあるカップの表情がしっかりと描写されています。

 

【 順光と逆光 】
「太陽を背にして撮れ。」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
これは被写体に対して正面から光が当たる「順光」になるための意味です。
この原則を基に、窓を背にして順光でカップを撮影してみました。(写真左)

カップには明暗がなく、平面的な写真になってしまいます。
順光は立体物には向いていませんが、ポスターなど平面物を撮るには有効です。

それでは逆に、窓に向かって撮影してみるとどうでしょう。
いわゆる逆光という状態です。(写真右)
被写体は全て陰になってしまいますが、
よく見るとカップのエッジラインはくっきりと描写されます。
一般的な立体物には向いていませんが、
屋外でのポートレートは逆光で撮る場合が多くなります。
 

【 室内灯 】
夜になって室内灯で撮ってみました。(写真左)

写真には「太陽はひとつ」という原則があるので、
当然被写体の影はひとつになることが基本です。
蛍光灯が何本も付いている室内では、カップの影が幾つも出来てしまいます。
どこか落ち着きのない写真になり、決して良い条件とは言えません。

これが電灯色の電球になると(写真右)
ホワイトバランスが適切にとれないために、赤味を帯びた写真になってしまいます。

このようにごく身近な場所で立体物を撮るには、
窓からの柔らかい光と斜光を利用することがベストです。

 
コーヒーカップで終わっては味気ないので、
最後にこの世に二つとない田渕義雄さん手作りの木製カップです。
木製皿とバターナイフを添えて自然光撮影してみました。

 
光を読み取ることも重要なポイントですが、
器を引き立てる演出力やカメラワークなど大切な要素はまだまだあります。
雑誌やホームページなどの媒体には素晴らしい写真が溢れ、
それらを良く観察することも写真上達の秘訣ではないでしょうか。

 

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コメント

  1. なるほど、素人にもよく判る光りの話でした。
    一つ質問なのですが、我が家の照明器具は全て電球なのに加えて、柱や壁などが茶系統なので、室内で撮影すると赤みを帯びた写真となってしまいます。このような場合はホワイトバランスをどのようにすれば良いでしょうか。

    • クボタさんへ

      ホワイトバランスは様々な光源下で白を正確に撮影するための補正で、一般的なデジカメは自動にセットされています。
      ただ白熱電球の場合は色温度が2800〜3000ケルビンと低く、カメラの自動補正では限界があるようです。マニュアルに設定できればISOを2800前後にセットしてみて下さい。多少オートよりは赤味が取れると思います。

      写真教室になっちゃいましたね・・・。

  2. 写風人さん、初めまして^ー^
    ダッチオーブン料理にトライしたくて、検索していてこちらを拝見しました。

    薪ストーブ、ダッチ料理に感動していたら・・・
    なんと!縄文土器まで!!
    文様もドラゴンの造形も素敵・・・
    薪ストーブで土器が焼けるんですね!

    火のある暮らし・・・憧れています^ー^
    また、ブログ拝見させてくださいね。

    • m.yamauchiさん、初めまして。
      コメントありがとうございます。

      薪ストーブは暖房や料理以外にも、
      衣類や食器を乾燥させたり土器を焼いたりと様々な使い道があります。
      また、家の中に火があると精神的に落ち着くというか・・・。
      薪ストーブって無限の可能性を秘めているような気がしますね。

      • 写風人さん
        こちらこそ、ありがとうございます^ー^

        いろんなブログ拝見させて頂きました。
        ダッチオーブン、道具、靴、ランタンetc・・・
        薪ストーブのまわりは、生きかた暮らしかたに通じる
        ・・・「テマヒマ」もカッコイイです。

        隣県に暮らしているので「是」さんにも行ってみたくなりました。
        ダッチオーブン料理の講座があれば、ぜひ参加したいです。
        アウトドア生活に憧れていますが、なかなか体験する機会がないので、
        またお知らせ告知、愉しみにしていますね。

  3. m.yamauchiさん

    隣県でしたら、ファイヤーライフ岐阜(http://coto2.jp)を訪れていただければ、すぐ近くですので、岐阜へお越しの際はぜひお立ち寄り下さい。
    何かイベントのある時にはお誘いいたします。

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