シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

21年目の薪ストーブ

今年は例年になく暖かい、という声を各地で耳にする。
わが八ヶ岳山麓もしかり。
いつもなら雪化粧しているはずの八ヶ岳や甲斐駒ケ岳なのに、今年は11月下旬になってもまだ秋の装いのままでいる。

しかしようやく寒気がやってきた。
わが家から望める八ヶ岳は、一日にして純白の衣装を身にまとい、山頂付近は雪雲のベールに包まれた。

冬の訪れだ。
ストーブのシーズン到来である。
メンテナンスを済ませて準備万端のストーブたちが「今年もまかせなさい!」と、胸を張っているようにみえる。

わが家で使っているストーブはすべてアンプラグドだ。
スイッチひとつで作動するファンヒーターの類いが好きになれないのである。
そもそも僕は温風が苦手だし、ファンの音だって耳障りだ。
それに炎が見えないから火を実感できないし、電気がなくては役に立たない、という事実が気に入らない。

本格的な冬が訪れたら薪ストーブの独壇場となるが、秋の肌寒い日やすぐに温まりたいときなどは灯油ストーブも愛用している。
薪ストーブにはかなわないけど、どちらも大変気に入っているストーブなので紹介しておきたい。

 

アジがある灯油ストーブ


右のストーブは家をつくった年に買ったから、薪ストーブと同じく今年で20年目になる。

ニッセンこと、日本船燈株式会社の灯油ストーブである。
社名が示すとおり、日本船燈株式会社は船舶用灯火をつくっているメーカーで、この灯油ストーブは船舶が使用する停泊灯をモチーフにデザインした傑作だ。
職人が手づくりで生産している真鍮製の逸品で、暖房としてだけでなく、ランプとしての機能も発揮して電球20W相当の優しい灯りで部屋を包みこんでくれる。
視覚的にも温かいストーブなのである。

デザインに一目惚れして購入したが、当時は価格が3万5千円程度だったと思う。
高くてもがんばって買った記憶があるけど、最近ネットで価格を知って驚いた。
機能的にもデザイン的にもまったく変わっていないのに、8万円の値段がついているのだ。
誇らしい気持ちに浸ったが、わが灯油ストーブは20年の歳月を経て真鍮がますますいい味になって、8万円以上の価値があるはずだと胸を張っている。

もう一方の灯油ストーブもニッセンの製品だが、右のランプ型ストーブよりも製品としての歴史は古く、わが家に来た歴史は浅い。
ランプ型ストーブはわが家のリビングで使うには小さいし、ケトルを載せることもできない。
薪ストーブの補助役として活躍できる灯油ストーブを物色していて、オークションで落札した。
丸くて穏やかなデザインがかわいいし、色のバランスも温かさを感じさせる。
自動着火などとは無縁の、シンプルでアナログな操作方法にも惹かれる。

甲乙つけがたい新旧ニッセンのストーブだが、どちらもシーズン前は部品をバラして、きれいに掃除をしている。
ランプ型ストーブの芯はネットでも手に入るし、ホーローのストーブも他社メーカー、トヨトミの製品を流用できる。
消耗品は芯くらいだから、それを交換したりして大事に使えば、半永久的に使える。
そこにも電気製品のファンヒーターとの違いがある。

点火方法にはちょっとしたコツがあり、芯をめいっぱい出して火をつけたら、すぐに火力調整つまみを絞ってやる。
放っておくと黒い煤がもうもうと出るからだ。
30秒ほどして丸い芯のすべてに火が回ったら、つまみを回して火力を調整する。
昔のオートバイのようにチョークを引いてエンジンをかけ、温まったらチョークを戻す感覚だ。
操作方法に関しても、スイッチひとつで済むファンヒーターとは異なる、アジがある灯油ストーブなのである。

 

わが家の主役、アクレイム

そして、薪ストーブの登場である。
わが家の主役、バーモントキャステングス社のレゾリュート・アクレイムは丸20年間ばりばりの現役で活躍してきたが、21年目の今シーズンも変わることなく僕らの身も心も暖めてくれることだろう。

わが家のルーティーンとして、薪ストーブを点火する前にやらなくてはならないことがある。まずは煙突掃除(第2回『屋根のてっぺんから』参照)。
そして薪ストーブ本体のメンテナンスだ。

メンテナンスといっても、それほど面倒なことはしない。
炉内のサイドファイヤーブリックやアーチブリックを外し、シーリングプレートを外して、二次燃焼室に溜まった灰を除去する程度である。
時間にしたらほんの10分程度の作業で済む。

今シーズンはフロントドア部分のファイバーロープに傷んだ箇所があったので、ファイバーロープも交換した。
いつものシーズンなら煙突掃除とメンテナンスが終わったらすぐに着火するが、ファイバーロープを接着する専用セメントは接着後24時間以上乾燥させなくてはならないので、着火の儀式は翌日までお預けとなった。

そこで今回は、乾燥させている時間に本体のサビ落としを試みた。
ズクショップの松澤さんに教えてもらったスタイルだ。
「ストーブポリッシュは、ハマる人はハマりますよ」と、松澤さんは言っていたが、なるほど、おもしろい。
中古品が新品、いや、新品以上に深みのある黒光りのボディーへと変貌していく。
やったらやっただけ成果が出るから夢中になる。
ただし、凝りすぎるとキリがなくなる。
へこんだ溝の部分も、ドアガラスの枠もすべてやらなくてはならなくなる。
こんなもんでいいや、と見切りをつけることも必要だろう。

僕はクルマにワックスをかけてきれいにするタイプの人間ではないし、20年間一度もボディーを磨いてこなかったわけだから、目立つ部分だけで十分だ。
サビを落としてストーブポリッシュが塗られて黒光りするわが薪ストーブは、存在感が一段と増した気がする。

24時間以上が経ち、セメントが完全に乾いたところで点火。
でもシーズン最初の火入れは慣らし程度に抑えている。
これまで半年以上炎から遠ざかっていたのである。いきなり高温にしたら、鋳物の薪ストーブに悪影響を与えるはずだ。
初日は細い薪が数本燃える程度、2日目は1時間近く穏やかに燃やして、3日目は2時間くらい。
徐々に馴らしていって1週間後くらいに炉全体が炎に包まれるくらいに燃やす。
これまた、昔のオートバイの扱い方と同じだ。
暖気運転をしてエンジンが温まってから、ゆっくりとスロットルを開ける。

さらにシーズン中も必要以上の薪を入れたりはしない。
もちろん場所や人によって薪ストーブの燃やし方は異なるから、どれが正しいとはいえないが、僕は燃焼中に薪を足す時は一度に数本入れたりはせず、1本ずつ入れている。

熾き火が煌々と燃えていて、1本でも十分に炎がまわって燃焼するタイミングで薪を足している。
薪を複数本入れたほうが当然薪ストーブは熱くなり、室温は高くなるが、そこまでして部屋を暖める必要はないと思っている。
室温は20℃程度で十分だ。
空気を暖めるエアコンと違って、薪ストーブはそこに存在するものすべてを輻射熱と遠赤外線で暖めてくれる。
壁や床など、部屋全体が温まるから気温が低めでも暖かさが感じられる。

そんな使い方を20年間続けてきただろうか。
わが薪ストーブの内部をチェックした専門家が、
「20年目の薪ストーブとは思えない。どこも歪みがない。
使って5年程度の薪ストーブと同じですよ」と誉めてくれた。
お世辞もあるだろうが、素直にうれしい。

20年使って5年程度しか年をとってないということは、わが薪ストーブはこのまま使い続けてもあと60年でようやく1人前の20年目という計算になる。
僕が生きている間は、きっと現役でいてくれるはずである。
だからこれからも大事につきあっていきたい。
薪ストーブは一生つきあえる良きパートナーなのだから。

Photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は1月下旬です。

     



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