シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

毎日柴刈り

「じいさんは山へしばかりに?」ではじまる桃太郎の昔話。
なぜ山で芝生を刈るのだろう? と子どもの頃は思っていたけれど、
八ヶ岳山麓で薪ストーブライフをはじめてから
実体験としてその意味を知るようになった。

冬が訪れると、僕は隣の森で毎日柴刈りをしている。
柴、つまり小枝を集めて薪ストーブの焚きつけにするのである。
正しくは刈っているのではなく、
強風や雪の重みで落ちた枯れ枝を拾い集めているわけだが、
柴を拾うたびに「じいさんは山へしばかりに?」の文節が思い浮かぶ。

昔のじいさんと変わらない仕事をしている自分が誇らしく思えるし、
自然に対する感謝の念も生まれる。

僕が手にしている柴は自然からの贈り物だ。
樹木を伐採しないかぎり、森は毎年焚きつけを提供してくれる。
わが家はサスティナブル(継続可能)な天然エネルギーを、
森から授かって暮らしているのである。

    

焚きつけは柴だけでなく、2×4(ツーバイフォー)の建材も使う。
大工の友人から定期的に譲ってもらっている端材である。
建築現場では余った木材や切れ端は処分が面倒な産業廃棄物だが、
わが家にとっては薪ストーブのサポーターだ。
この建材も木造建築の仕事があるかぎり、供給がストップすることはない。
バランスがいい再利用といえるだろう。

 

薪の運搬

焚きつけの用意が終わったら、薪の運搬だ。
ずらりと並んだ薪の棚から1日に必要なぶんだけを運ぶのだが、
薪を運ぶログキャリーに注目してもらいたい。

このデザイン、アウトドアに興味がある方ならピンと来るだろう。
そう。アメリカを代表するアウトドア・ブランド、
L.L.Beanのトートバッグ(正しき商品名はボート&トートバッグ)である。

きっかけは昨年の4月。
雑誌の取材でアメリカのメイン州にあるL.L.Beanの本社工場を訪れ、
トートバッグの製造工程を見学させてもらった。
そのとき目にとまったのが、袋状に立体縫製する前のトートバッグだ。

これって、そのままログキャリーとして使えるではないか。
24オンスのキャンバス地は丈夫だし(柴拾いに使っている僕のトートバッグは20年以上愛用しているが、まだまだ現役だ)、
ハンドルがボトム部までカバーしているから重い薪の運搬にも耐えられる。
ミディアムサイズの原型は長さが45cm程度でちょうどいいし、
なんてったってL.L.Beanのトートバッグである。
品質はお墨付きだし、シンプルなデザインも秀逸だ。

譲ってもらえないか、とスタッフにお願いして
特別にプレゼントされたのが、このログキャリーなのである。
これを市販すればいいのに、と僕は思う。
新たな商品を開発するのは面倒だけど、製作途中の商品だから手間がいらない。
しかも立体縫製する前の平たい状態だから、商品をたくさん積み重ねて運べる。
完成したトートバッグに比べて輸送面のコストもかからないはずである。

L.L.Beanが商品化しないなら、
個人的に工場と取引して通販しようかな、と秘かに企んでいるが、
商売ができない人間だから絶対に無理、と妻からは釘を刺されている。

ちなみにプレゼントされた商品は、
ノーマルハンドルの青モデルと、レザーハンドルのモデル。
どちらにもMADE BY L.L.Beanのタグがついていて、
目にするたびに誇らしい気持ちになれる。

 
ログキャリーで運んだ薪は、
炉台の近くに置いたオーバルウッドストッカーに収納する。
本来は薪を立てた状態で入れるストッカーだが、
ラージサイズだと長さ40cmの薪をくるんだログキャリーがすっぽり入る。
ログキャリーからはみ出た木屑などが炉台の周囲を汚すこともない。

ウッドストッカーを据え置きのスタンドにして、
ログキャリーを入れ替えて薪の補充をする。
それがわが家のスタイルなのである。

 

火を育てる

焚きつけや薪の準備が整ったところで、いよいよ着火だ。
まずは古新聞をほんの少し破って置き、その上に柴を覆い被せていく。
幾重にも覆ったら、ハンドアックスで細く割った2×4の建材を加えていく。

着火を成功させるコツは、
空気が下から入り込むように焚きつけを積み上げることにある。
密に積んでいくと空気が通らず燃え上がらないし、
疎らだと炎が燃え移っていかない。
その観点からも、細くて燃えやすく、
一本一本が湾曲して隙間が生じる柴は焚きつけに最適なのだ。
空気が入り込んで勢いよく炎が上がり、着実に焚きつけに燃え移っていく。

なお、僕が着火に使う古新聞はほんのわずかだ。
古新聞ではなく、数枚の枯れ葉を利用することだってある。
子どもの頃から焚き火に親しんできたから
確実に着火させるスキルが身についているし、
廃材や柴を利用することにこだわりを持っているから古新聞も使うが、
一般にはおすすめできない。

丸めた古新聞は空気の通りが悪くなってむしろ着火に適さないし、
黒い燃えカスが残るのは見た目にもよくない。
さらに燃えカスが上昇気流で舞い上がって煙突を詰まらせる事態にもなる。
薪ストーブのメーカーが着火材の使用を推奨している理由は、そこにある。

着火して柴や建材が燃え上がっていく過程は、
人間の一生に例えるなら、少年までの成長期だろう。
放りっぱなしはよくないし、手を出しすぎると炎は小さくなってしまう。
そのあたりも子育てに通じるものがある。

細い薪を少しずつ足していき、
炎が安定して薪ストーブが放熱をはじめたらバイパスダンパーを閉める。
人間でいえば、そのタイミングは青春時代から大人の世界に足を踏み入れる段階かもしれない。

バイパスダンパーが閉まる頃には、薪ストーブは一段と実力を発揮する。
薪ストーブはエアコンと違って空気ではなく、
室内にあるものすべてをあたためるため、心地よい暖気に部屋全体が包まれる。
外がマイナスの世界でも、室内は楽園である。

ただし、必要以上に薪を燃やすような野暮なことはしない。
たっぷり薪をくべ、室内温度をあげて薄着で過ごすなんてのは、
成金オヤジがすることだ。
賢明な薪ストーブ愛好家は、
自然の贈り物を享受して暖をとっていることを自覚し、
相応の薪を燃やすべきである。

着火から1時間も経つと、炉の内部は煌々とした熾き火となって落ち着き、
安定した放熱を長時間持続する。
太い薪をくべても、やんわりと受け入れて穏やかな炎で包み込む。
熟成されたこの段階を人間で例えるなら──僕の世代かな……。
なんちゃってね!

使用ストーブ » バーモントキャスティングス  レゾリュート・アクレイム

photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華

 

(編集部より)
設置に関しては、現在の施工基準と異なる場合があります。
*次回の更新は2014年3月下旬です。

 

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