シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

動力エネルギーも自給自足

新しい乗り物を手に入れた。
電気で動くライク-T3。
4輪の自動車ではなく、側車付軽2輪車というカテゴリーに属する乗り物だ。
前輪がひとつ、後輪がふたつの3輪車で、トライクと呼ばれる。
その昔、ミゼットという名のオート三輪があったが、外観のイメージはそれに近い。
しかし、ライク-T3は車検が必要ないし、ヘルメットもシートベルトも不要。
普通自動車の免許で手軽に乗れる。
地球にも財布にも人にも優しい、先進のEVトランスポーターなのである。

光岡自動車と組んでライク-T3を開発したユアサM&Bの松本紀久央さんから「斉藤さんにこの車のおもしろさを体験していただきたい」と手紙をもらい、「納得いただけるまでご自由にお使いください」というありがたい言葉をいただいて、好意に甘えることになった。

用意されたライク-T3はホワイトカラーだったが、「フロントパネルは斉藤さん好みの色に塗装します」とのこと。
僕好みの空色に塗装してもらった特別仕様のライク-T3が、7月上旬にわが家へやってきた。

以前から電気自動車には興味があった。
本気で買うつもりでニッサンや三菱自動車に見積もりを出してもらったくらいだ。
というのも、わが家は17年前からソーラーパネルを設置して自家発電をしている。
電気自動車にすれば、動力エネルギーの自給自足が可能となる。
薪ストーブと同じように燃料を自分の家でつくって、しかも排ガスもCO2の排出もゼロって、田舎暮らしの理想的なライフスタイルではないか。
東日本大震災以降はその思いがより強くなった。

しかし、ニッサンのリーフにしても三菱自動車のアイミーブにしてもそれなりの値が張るし、買うとなれば現在所有している車3台(ステーションワゴン、軽トラ、軽ワンボックスカー)のうち、どれかを手放さなくてはならないし(車庫がキャパシティーオーバーになる)、充電用に200Vの専用コンセントも設置しなくてはならない。

手間もお金もかかるため手が出せずにいたのだが、ライク-T3は次元が違った。
なんせ、100Vの家庭用コンセントでいいのだ。
電化製品を扱う感覚で気軽に充電できてしまうのである。

充電時間は6時間。
フル充電の状態で60km走れて、電気代に換算すると1kmを約1円で走れる勘定になる。
燃費がトップクラスのクルマでも、リッター30km程度。
レギュラーガソリン1リットル120円として1km走るのに4円かかる。
ライク-T3は燃料代がその4分の1で済むし(自家発電しているわが家の場合は燃料代が実質ゼロ)、車検代はかからず、税金も任意保険も250ccのオートバイと同じ料金で済む(任意保険は内容によって料金が異なるが、税金は年3600円)。
とても経済的だし、ライク-T3のサイズは長さ2485mm、幅が1075mmで、コンパクト。
デッキの下に設置した薪棚の横にすんなりと収めることができた。

ライク-T3は装備もいたってシンプルだ。
エアコンやオーディオなど、余計なものは何もなく、足元にアクセルとブレーキ、ハンドル回りに前進と後進のレバー、サイドブレーキ、ウインカーがあるくらいだ。
小学生でもすぐに運転をマスターできるくらい操作がわかりやすい。
これは乗用車ではなく、軽2輪車に属することが簡素な装備を見ても理解できる。

シートは座るタイプではなく、オートバイのようにまたぐスタイルだし、ハンドルも乗用車のように丸形ではなく、上部がカットされた半円状になっている。
道路交通法上、丸いデザインにすると乗用車のカテゴリーになってしまい、軽2輪車のカテゴリーに収めるためにこのようなデザインになったとのことだ。
クルマを運転する感覚でハンドルを回すと最初は戸惑うが、すぐに慣れる。
ハンドルの遊びが少なく、クイックに反応するので、車庫入れ以外ではハンドルを大きく回す必要もない。
それにこのデザイン、飛行機の操縦桿みたいでかっこよくて、個人的には気に入っている。

操縦席の正面に小さくレイアウトされたメーターのデザインもハンドルとマッチしていると思う。
スピードメーターや距離計以外に、バッテリー残量計や動力の使用状況を示すパワーメーターなど、実用的なデータを表示する。
なお、バッテリー残量計の一目盛りで10km走れるというのが、おおまかな目安だ。
バッテリーが空になるまで使うのではなく、走ったら充電する、という習慣を身につけてこまめに充電を繰り返す。
10km走った場合は1時間程度の充電で補填できる。

肝心の走りだが、外観に似合わないくらい速い。
電気自動車の場合、アクセルを踏み込むとすぐに最大トルクを発揮するため、発進がスポーツカーなみに速いが、ライク-T3も同じ走りだ。
アクセルを踏み込めばエンジン音を轟かせることもなく、静かにダッシュする。
信号待ちのあとの発進では、他の自動車を引き離すことができるくらいの加速性能である。

最高速度は50km程度だが、一般道では必要十分。
原付のスクーターよりも速く、交通の流れに乗ることができる。
3輪車の場合、高速で曲がるときにコテンと転んでしまうんじゃないかと思われがちだが(昔のオート3輪は、そういう事故が多かったらしい)、ライク-T3のコーナリングは安定している。
バッテリーや駆動モーターなどが車体の下部にレイアウトされていて重心が低いため、コケにくいのだ。
大型オートバイにも乗る僕がワインディングロードを走ってコーナーを攻めてみたけど、不安なくスムーズにコーナーを駆け抜けることができた。

走りに関してはスポーツカー的なオープンカーといえるが、ライク-T3は貨物車両としても使える。
オープンの荷台は2名乗車時でも100kgもの荷物を運搬できるのだ。
薪にする原木などの運搬も、少量ならトラックに頼らなくてもライク-T3で済んでしまう。
車体が小さくて、ハンドルが切れるため、狭い道でも入っていけるし、くるりと簡単にUターンもできる。

僕はライク-T3の荷台にコールマンの大型クーラーボックスを設置した。
色が車体と同じホワイトだし、サイズもデザインもジャストフィット。
買い物に行ったときは、冷凍食品もこの中にすっぽり収納できて使い勝手は抜群だ。

さて、いいことづくめのライク-T3ではあるが、欠点がないわけでもない。
それはとにかく目立つ、ということ。
なんせ、この愛らしいルックスである。
東日本ではほとんど出回っていないこともあり、ライク-T3で走ると人々の注目を浴びる。
しかもドアもないフルオープンカーだから、運転するドライバーも助手席に乗った人も全身を見られることになる。

もっとも、目立ちたがり屋の人にとっては、これこそが最大の魅力なのだろう。
僕も妻も見られることを意識しつつ、ライク-T3の八ヶ岳ライフをじっくり楽しもうと思う。

 
Photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は9月下旬です。

 

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