シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

もっと外メシ!

異常に暑かった夏もようやく一段落。
外メシがおいしい季節がやってきた。

世間一般的には、外メシはレストランなどを利用する外食を意味するだろうが、
わが家では文字どおり、野外で楽しむ食事を意味している。
薪を使ってかまどで炊飯したり、七輪で炭火を熾して魚や野菜を焼いて、
外のウッドデッキで食べるのだ。
遠赤外線の薪や炭火を使った料理は、
一流レストランの料理にひけをとらないと僕は思っている。

大学生の長男、一歩が帰省しているし、一歩の大学の友人も泊まりに来ている。
おまけに今夜は満月だ。絶好の外メシ日和である。
「おーい、一歩。サンマを買ってきて。ひとり1本の計算で人数分、頼む」

せっかくだから、近所に住む松永夫妻にも声をかけよう。
奥さんの華子さんはイラストレーターで、
この新たな連載のイラストを担当してくれることになっている。
今さらわが家のライフスタイルを見てもらうのもなんだけど、
一緒に外メシを楽しんだほうが話は早い。

 

かまどは娯楽

日が暮れる前に、僕は炊飯にとりかかった。
わが家の庭には小さなかまど小屋があって、そこでは薪を使った煮炊きができる。
設置してあるのは、『文化かまど』と呼ばれるかまどだ。
近所の寺の軒下に放置されていたものを譲り受けたのだが、
重量は100kg以上ある。
タイル張りで、薪を燃やしても表面が熱くならない。

ガスコンロ以前はこの文化かまどが一般住宅に普及していたそうだが、
暑い夏場の使用も考えれば、燃やしても室内が暑くならない構造こそが、
文化かまどの特色といえるだろう。

文化かまどに置いた羽釜に研いだ米を入れ、水を少し多めに設定して炊きはじめる。
薪は細かく割ったツーバイ材の木っ端だ。
焚き口が小さくてそれぐらいしか入らないのだが、
細かく割った薪は勢いよく燃える。

炊飯のコツは「はじめチョロチョロ、中パッパ」といわれるが、
気にかける必要はない。薪のかまどはすぐに温まらないから、
結果的に「はじめチョロチョロ」で、
次第に熱くなって「中パッパ」の状態になっていく。

やがて重厚な木のふたの隙間から香ばしい湯気が噴き出る。
蒸気機関を想わせる勢いだ。
この湯気の勢いが衰え、ピチ、ピチ……という音が聞こえてきたら、要チェック。
この見極めが、ごはんをおいしく炊くコツである。
かまどの火をかき出して、余熱で蒸らしに移る。あとは15分ほど待てばいい。

火を熾してから炊きあがるまでの間、僕はかまどにつきっきりでいた。
スイッチひとつで済む電気炊飯器と比べたら
面倒に思うかもしれないが、そうではない。
これは僕にとって娯楽だ。
かまどの前に座り、火をコントロールして炊飯する。
その時間が楽しいのだ。
しかも炊きあがったごはんはホクホクで、おコゲもあって、
おかずがいらないくらいにおいしいんだから、文句のつけようがない。

 

七輪、腕の見せどころ

炊飯を終えた頃、買い出しに出かけた一歩が帰ってきた。
「サンマ、高かった」
1本297円もしたという。

今年は猛暑の影響でサンマは不漁で、例年だと100円程度で買えるのに3倍もする。
これでは高級魚だ。でも七輪で焼く新鮮なサンマは最高の贅沢なんだから、
これでも安いと思うことにしよう。

一歩に七輪の炭を起こすように命じた。
わが家は薪ストーブを愛用しているし、ファイヤープレイスや五右衛門風呂もあって、うちの子たちは小さいうちから火を操ってきた。
当時はそうでもなかったようだが、二十歳を越えたあたりから、
焚き火ができること、子どもの頃から火に接してきたことを
息子は誇りに感じているようだ。

一歩が無駄なく木っ端を使って七輪の炭を熾す。
サンマを焼くのにちょうどいい角型の七輪がわが家には2種類あるが、
どちらも自慢の逸品だ。
ひとつは能登半島の天然珪藻土岩から職人が切り出した角型七輪。
切り出しの七輪は珪藻土の組織が破壊されず、
細かい孔の数が多いため通気性がよくて炭が燃えやすい。
保温性がよく、遠赤外線も大量に放出される。

もうひとつは愛知県三河の瓦職人が手づくりしている黒七輪だ。
内側が珪藻土で外側が黒瓦の二重構造になっている。
熱効率に優れた珪藻土と、耐久性が高い瓦という最強のタッグだ。
わが家は15年以上使い続けているけれど、崩れる兆候はまったくない。

ナラ材の炭が燃え、熾き火ができたところで、活きのいいサンマを七輪に乗せる。
サンマから脂が落ち、それが煙となってサンマを燻す。
脂の量が多くなると、炎があがる。

ここからが腕の見せ所だ。
放っておくとサンマが黒焦げになるので、うちわを使ってサッと火を消す。
煙が上がる、炎が出る、うちわで消す、
を繰り返しているうちに、サンマがじわじわ焼けていく。
煙を出すのが憚れる都会では無理だろう。
田舎ならではの、ぜいたくで楽しい調理方法なのだ。

 

おいしい食卓

さあ、いただこう!
焼き立てのサンマに、たっぷりの大根おろしをかけて口に運ぶ。
表面はカリッとして、中はふんわりと柔らかい。味も濃い。
ガスで焼いたら、こうはいかない。

この絶品サンマに、かまどで炊いたごはんも加わる。
これに勝る料理はないんじゃないか、とあらためて思う。
みんなの笑顔も、そう語っている。

思えば数年前までは、外メシは日常茶飯事だったし、
夕食どきはテレビをつけず、息子たちは今日一日学校で何があったかを語る、
報告会の場でもあった。


(この写真は子供がまだ小さかった頃。外メシしながらよく話した)

しかし、長男が大学に進学して家を離れ、
次男が部活で帰りが遅くなってからは、外メシの機会は減った。
夫婦ふたりだけだと外メシは味気ないと思い込んでいたけど、
やっぱりそうじゃない。
誰かが来たら、外メシをしよう。いや、ふたりだけでもいい。
もっと外メシを楽しもう。

やがて満月がデッキを照らし出した。
月明かりが照らす空の下、炭火で焼いたおかずと、
かまどで炊いたごはんをいただく。
お互いに語り合いながら、ゆっくりと……。
このスタイルこそが、おいしい食卓なのだ。

 

photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華



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