Faith in a tree 「樹木への信念」
「わたしは大きな樹です。夏には涼しい木陰を投げかけ、冬には北風を遮ります。わたしは二酸化炭素を食べて、酸素を大気に放ちます。わたしはその二酸化炭素を炭素として木質に固定化します。木材は、わたしが固定化した二酸化炭素の生まれ変わりです。わたしはあなたの家の柱になります。その家の素敵なドアや窓になり、椅子になりキャビネットになりベッドになります。子供の揺籃(ゆりかご)になり木の船になり、斧の柄になります。わたしは薪になって、雪深い冬の夜にもあなたの家に小春日和の日差しに似た暖かさを運びます」
一本の樹木は、我々にそう語りかけながら静かに佇んでいる。
緑の山々を朝に夕に眺めながら、木々に囲まれて28年間暮らしてみれば、自分をとりまく環境が文字通り自分の視野に影響を及ぼしていることが分かる。そして、その思いはいつか樹木への信仰に似た信念に変わっていることに気づく。樹木…それはこの世で最も大きく壮麗な生命。そして、我々に最も優しく役に立ってくれる創造物。森と樹木を敬え! 人生も人の幸せもいろいろだが、自然を敬わない社会や時代に明日はない。今ある時代の疑わしさや混乱はそこからきている。何度でも言いつづける…リベラルとは自然のことだ。自然は惜しげない。自然は誰にでも平等だ。みんなで自然を敬う社会こそが、民主主義の原点であり目指す道だ。
冬へ…。ラズベリーの紅葉はラズベリーレッド。秋の名残のその紅葉に初雪が降りて、季節は冬へ。枝々の葉をすっかり落とした木々の潔さはどうだ。冬姿に なった木々の佇まいもいい。夏には鬱蒼としていた庭がすっかり明るくなって、初冬の光が優しく差し込んでいる。我が中部高地の冷温帯落葉闊葉樹林エリアの初冬が好きだ。
夏耕冬木。冬は家具作りに精を出す季節。樹木への信念が、わたしの木工術をバックアップしてくれている。
木工が好きだ。木の堅さ柔らかさが好きだ。木を椅子やテーブルやキャビネットに生まれ変わらせていく木工術に心ときめく。イントレピッドで木工室を暖めながら、瀟洒なウィンザーチェアーやロッキングチェアーを作るのが大好きだ。それは、うっとりとする座り心地を持った美しい木のスカルプチャーとしてある。
私は国産材を好む。自分の国の樹木のことをもっと知りたいと思う。私が作るウィンザーチェアーは、国内材の山桜(チェリー材)とトネリコから成っている。座板と背板と肘掛けは桜。スピンドルと脚にトネリコを使う。トネリコはプロ野球選手のバットになる丈夫な材。山桜は使い込むほどに飴色になっていく手触りのいい高級な家具材。
あまり知られていないことだが、アメリカ合衆国はチェリー材の宝庫。ペンシルバニア州の山に広大なアメリカンチェリーの人工林があり、チェリー材を世界中 に供給している。チェリー材は高級な家具材として取り扱われる。アメリカンチェリーも素敵な材だ。加工しやすいし、それをリンシードオイル(亜麻仁油)で 仕上げてみれば、瀟洒な家具になる。
では、日本のチェリー材である山桜はどうなんだろうか? アメリカンチェリーと日本のチェリーを椅子やテーブルにして思ったこと。それは、日本の桜材は、 極東アジアの中緯度地帯に浮かぶこの島国ならではのものだということだ。海を渡って吹きつける季節風が堅牢な桜材を育むのだ。
一方、アメリカンチェリーは大陸育ちという感じがする。何が言いたいのかといえば、島国育ちの日本の桜材は少し扱いにくいが、奥深い個性が宿る素晴らしい材だということである。そして、こう思う。「日本の木工家なら、日本の山桜と人生を共にしたい」と。
わたしたちは、今でも国土の70パーセント近くが森林で覆われている緑の列島に住んでいることを誇りに思おう。そして、この森林に育つ樹木はそれぞれに個 性的なもので、何処にもない森林資源だということに思いを巡らそう。「家はところの木で建てろ」とう格言がある。「そのエリアの家は、そのエリアで育った 木で建てるの一番理にかなっている」という意味。「グローバルに考え、ローカリーに行動せよ」という言葉は、そういうことである。幸せになりたいんだった ら、祖国の林野に、もっともっと人手とお金を!
家になりたがっている木がある。建具になりたがっている木がある。家具になりたがっている木がある。そして、薪エネルギーになって冬を煌々と燃えたがっている木がある。
Photoes by Yoshiki Hayashi &Yoshio Tabuchi
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