エッセイ集 薪ストーブの里から

宮崎学 フォトエッセイ 森の動物日記

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

鹿が馬鹿といわれるワケ

2010/9/29 miyazaki タグ:
| カテゴリー: シカ | comments(7) »

信州伊那谷の山間にある知り合いの農家から電話がきました。

「gakuさんねぇー 最近シカが増えて、農作物を荒らしてしまって困るんだよねぇー
ちょっと、現場をみてアドバイスをしてくれない…? 」

さっそく出かけてみると、たしかにニホンジカの足跡や糞がいっぱいです。
ブルーベリーの木を食べてしまったり、ジャガイモまで掘ってしまう始末なのです。

足跡をたどってみれば、シカたちは農家で有機肥料につかっている牛糞に向かっていました。
牛糞はダンプカー数台分の量を、農地の外れに野積みにされていたのです。
その牛糞に向かってたくさんの足跡がついていたので、どうやらシカは牛糞をなめにきているようなのです。
牛糞といえば、牛たちが出した糞尿です。
それをシカが求めているとは、普段の私たち人間の感覚では想像もできないことです。
しかし、野生のニホンジカたちは確実にこの糞尿に集まってきていたのですから、ここには何かがあるとしか思えません。

「シカたちは、牛糞に含まれる塩分やミネラル分を、サプリメントにしているのではないだろうか?」
そう思ったボクは、牛糞に向けて無人撮影カメラを設置してみることを思いつきました。
ボクはその農家さんにお願いをして、数ヶ月間、この牛糞堆肥をカメラで狙わせてもらうことにしたのです。

無人カメラの結果は、夕方から明け方にかけての夜間にシカたちは確かに訪れていました。
しかも、糞尿から滲みだしてくる醤油のような液体を好んで舐めていたのです。
それは、まさかという光景でしたが、シカたちは夢中になっているようすでした。

牛糞堆肥現場からは、糞汁がにじみでている。
(photo:牛糞堆肥現場からは、糞汁がにじみでている。)

「馬鹿」という言葉は、馬と鹿には胆のうがないことから「内蔵の部品がひとつ足らないから」と言われています。
胆のうがないということは、馬も鹿も、それだけ植物だけを食べる動物に特化してきていると思っていいでしょう。
このため、消化の悪い植物を消化させるには、腸内にバクテリアを飼っていて、そのバクテリアの力を借りているともいわれています。
このバクテリアたちのために、シカはなんらかのかたちで塩分やミネラル分が必要なのだと思います。
だから、家畜の糞尿を積極的に舐めにやってくるのかもしれません。

夜間に糞汁を舐めにきた若いニホンジカのオス。
(photo:夜間に糞汁を舐めにきた若いニホンジカのオス。)

これも、若いニホンジカのオスがひっそりとやってきた。
(photo:これも、若いニホンジカのオスがひっそりとやってきた。)

夏には、子連れのシカたちもやってくる。
(photo:夏には、子連れのシカたちもやってくる。)

鹿のこのような行動は、田畑だけにかぎりません。
山村で長い間暮らしてきた人間の廃屋の便所にも、シカたちはやってきています。
また、南アルプスには、数万年も前に粘土層に閉じ込められたと思われる動物たちの死骸がミネラル化している泥があり、鹿たちがそうした泥を舐めにくる場所もあります。
いろんな生物が長い時を越えてリンクしながら生命が息づいていることを再発見できます。
「馬鹿」とは簡単にはいえない、意味の深いところまで知ってしまうと、人間をも含めた生命の不思議さを感じてしまいます。

近年では全国的にシカが激増してきて農業被害を出していますが、有機肥料などの扱いひとつで野生のシカたちに元気を与えている可能性があります。
いわば、人間が生きるために行っている生産活動現場が、知らないところでシカたちを増やしていることを農家にも説明したところです。

南アルプスの泥なめ場についたシカたちの足跡。
(photo:南アルプスの泥なめ場についたシカたちの足跡。)

南アルプスの泥なめ場には、年間を通してシカたちがミネラル補給にやってくる。 (photo:南アルプスの泥なめ場には、年間を通してシカたちがミネラル補給にやってくる。
※写真をクリックすると大きく表示されます。)

この粘土層がシカたちには媚薬となっている。
(photo:この粘土層がシカたちには媚薬となっている。)

シカたちの糞尿が溶け込んだ土をオオマルハナバチが吸うから、昆虫にはシカの糞尿が媚薬となっているにちがいない。
(photo:シカたちの糞尿が溶け込んだ土をオオマルハナバチが吸うから、昆虫にはシカの糞尿が媚薬となっているにちがいない。)

シカたちの糞。
(photo:シカたちの糞。)

オオマルハナバチが列をつくってシカの尿がしみた土を吸う。
(photo:オオマルハナバチが列をつくってシカの尿がしみた土を吸う。)

毎晩入れ替わりにいろんなシカたちが、有機肥料糞汁をもとめてやってくる。 (photo:毎晩入れ替わりにいろんなシカたちが、有機肥料糞汁をもとめてやってくる。
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