エッセイ集 薪ストーブの里から

宮崎学 フォトエッセイ 森の動物日記

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

リスの月面宙返り

2009/6/28 miyazaki | カテゴリー: リス | comments(9) »

木の幹を駆け下りてくるリス

 

「カサッ カサッ カサッ カサッ … 」

朝になるとこんな音が、仕事場の布団の中まで聞こえてくる。
これは、リスがヒノキの幹を逆さになって降りてくる、音だ。
垂直の幹を後ろ足の爪で体を支えながらまっすぐに降りてくるので、一歩ずつ小刻みにつかう爪の音がこのように聞こえてくるのだった。
ヒノキの幹は、部屋から3mほどしか離れていないので、このようなちょっとした野生の爪音にも生命が感じられてうれしくなる。

ボクの仕事場は、中央アルプス山麓にある森に囲まれた高原。
ここはリスがふつうに生活していた場所なので、その森に家ができ庭が出来ても、当たり前のようにリスたちが遊びにくる。
やってくるリスの数はその年によって増減がある。
多いときには最大で6頭。少ない年では1頭だけのこともある。
平均すれば、3頭ほどのリスが庭に毎年やってきているといったところだろうか。

しかし、このリスたちにも互いに連帯感はなさそうだ。
それぞれに単独で自分の世界を生きているらしく、2頭仲良く肩を並べているというようなところは見たことがない。
とにかく、3m以内にほかのリスが近づいてくると、順位の高いものが猛烈に追い払うのだから、互いに認識していることはたしかなようである。
可愛らし顔をしていても、生きることに関しては厳しいのである。

こんなリスたちなので、それぞれに巣のある場所も違うようで、庭へやってくるのにもそれぞれに通勤コースがある。
あるリスは、西からやってきて、帰りも西へ。
また、あるリスは南からやってきて、やはり南へ帰って行く。
もちろん、東からやってきて、東へ帰るリスもいる。
それぞれに、ちゃんとコースが決まっていて、そのルートを毎日勤勉に通っているところがおもしろい。
人間の作った塀の上も、軒下や屋根の上だって彼らにとってはちゃんとした「けもの道」だ。

リスの宙返り

ある日、東へ帰るリスが仕事場のテラスから必ずヒノキの幹に空中ジャンプしていくことがわかった。
毎日そのコースを使うので、ならばリスの空中浮揚シーンを撮影してしまおうと、ボクは考えた。
そのジャンプシーンはあまりにもスピードが速いので、目で動作を確認してカメラのシャッターを切ることはできない。
そこで、空中に赤外線センサーを張り、そのセンサーで動作をキャッチして自動撮影カメラに連動させるというハイテク装置で狙ってみた。

ある日のカメラに、空中にリスが宙返りする姿が写されていた。
頭を下に向けて、後ろ足が上になっているのだ。
跳び発つときは、頭を上に向けて後ろ足で力強くジャンプしているのに、着地すべきヒノキの幹が近づくころにはまるで新体操の月面宙返りのようにスタイルが逆転していたのだった。
リスが幹に飛びつく瞬間に逆さになっているとはまさに新発見だったが、そう言えば垂直の幹を逆さまに降りてくるときも後ろ足の爪をつかって体のすべてを支えている。
このことから、リスは後ろ足が最大の武器であることに気づいたのである。
着地のときに頭を上にして幹にしがみつけば、リスは顎をしこたま幹にぶつけてしまうということになる。それをしないためにも、まずは逆さまになって後ろ足の爪で幹をつかみ、そのあとで手をつけば安全に自分の身を確保することができるからだ。
 

ジャンプするリス


ふだんはリスの動きが速すぎて、このようなスタイルなどを見たこともなかったが、写真という静止画を撮ってみて、庭に毎日遊びにくるリスにも、実はこんな特技があったとは驚きである。
そんな森の軽業師リスは、ボクの前では本当にいろんな顔を見せてくれる。今日はなんとボクの仕事場のベランダの手すりの上で、ひなたぼっこをしながら居眠りをしてしまった。ボクの庭が余程居心地が良いのだろうか。

居眠りリス

薪ストーブエッセイ・森からの便り 新着案内