宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

イマドキの獣害最前線


(Photo:シカが増えて畑を荒らすからと、ドラムカンで周囲をぐるりと囲った獣害フェンス。ドラムカンは雨水で満杯になっていたけれど、中身は何がはいっていたのだろう。千葉県房総半島。)

ボクは、基本的には旅が好きです。
それも、一人旅。
全国津々浦々とにかく気が向いたところへ、自分の時間を誰にも邪魔されず、一人だけで答えを探しながら旅をするが好きなのです。

今まで40年以上にわたって、日本中を歩いてきました。
経費と時間を節約するためには、ワンボックスカーで眠り、食事も「釜めし」の釜で一人分のご飯を炊いています。
釜めしの釜は、15分でご飯が炊けてしまうし、いつも炊きたてでとても美味しいことを発見しました。

こうして旅をしているのですが、旅にもいくつかのテーマを決めて行くので行き当たりばったりということではありません。
あるときには、野生動物を狙い、またあるときには野鳥を狙ったりもします。
また、最近は、人と自然と動物たちをテーマにもしているため、それこそ旅の目的はいつまでたってもたくさんありすぎるくらいです。

そんな旅の途中で出会った、「イマドキの”獣害”」を拾ってみました。
このテーマは、ここ30年ばかりあたためてきていいるものですが、「獣害」とは、動物たちが農作物などを荒らして人間の領分を侵してきていることを指します。
以前は、野生動物というものは人間を非常に怖がっているものだと思われてきているのが一般的な考え方でした。
このため、人間が野生動物たちを守ってあげなければならないという、かわいそうな「被害者」が動物たちだったのです。
ところが、近年は、動物たちのほうが傍若無人になって人間をナメテ攻めてきているといった「加害者」に逆転してしまったのです。

全国を旅して見て来た「人と獣との攻防戦」。
地域によっての時差など獣害前線はどんどん動いています。
また、獣害対策にも地域色が出ているものや、自然界の仕組みをわかっていない人間が、動物に馬鹿にされてしまっている場面に出くわすと、ボクは写真家として面白くてたまりません。
獣害はこのさき100年以上にわたって減ることはないだろうと思います。
裏を返せば、それだけ私たち人間が、どんどん自然を見ることができなくなってしまったということですから、獣と人との攻防戦を通してそれぞれの地域の人間模様をみるのが、ボクの旅の楽しみのひとつなのです。

 


(Photo:鹿児島県の大隅半島へでかけたら、畑の天井までをドーム場に囲ってあった。近所のおばあさんに聞けば、ここ5年ほどの間にニホンザルが増えてきて畑を荒らすのだという。サル対策には、天井までネットで覆わなければ被害も収まらないのだ。鹿児島県南大隅町。)


(Photo:ミカン畑にイノシシがやってきて困るということから、イノシシの目の高さにたくさんの空き缶が吊されていた。微風でも空き缶が鳴るらしく、それをイノシシが警戒するのだ、と。このような空き缶対策は三重県の四日市から岐阜県の海津市付近までのごく限られた地域に見られた。これこそ、空き缶の地域文化だったがイノシシはかなり突破してミカン畑に侵入しているようだった。岐阜県海津市。)


(Photo:これは、電柱にあるタテ看板。その廃物利用で畑をぐるりと囲ってあった。シカとイノシシ対策だが、材料費を極力抑えようとの苦肉の策にも感じたが、単なる思いつきのフェンスだったのかもしれない。長野県伊那市。)


(Photo:漁網と布団カバーらしき廃物利用の獣害フェンス。獣害にはほとほと困っているようすがよく表れているがフェンスそのものにはお金をかけようとはしていないのがオモシロイ。鳥取県岩美町。)


(Photo:シカとイノシシ対策だと思うが、すべてが竹を利用していた。それも丁寧に竹を割って漁網のロープを廃物利用して縛り付けていた。こんなことのできるのは元気な年寄りだろう。兵庫県香美町。)


(Photo:福井県敦賀市の海岸に面した小さな集落。シカ害に困り果ててこのような手作りフェンスの登場。海岸に流れ着いた漂流物がかなり利用されていた。これは、かなり年寄りで、元気はなくても時間がしっかりありそうな人の作品に思える。福井県敦賀市。)


(Photo:実りを迎えた田んぼの脇にジャガイモが刺されていた。これは、スズメ脅しだという。スズメがジャガイモのニオイを嫌ってやってこないのだ、とのこと。スズメってそんなに嗅覚が発達しているとは思えず、農家の方の自己満足のような気がしてならない。長野県喬木村。)


(Photo:スギの人工林に、とつぜんルーズソックルが現れた。これは、シカが樹木の幹を傷つけるので、それを防ぐために履かせたもの。このような光景は福井県の南部に集中的に見られた。福井県小浜市。)


(Photo:シカ対策用の獣害フェンスといえばこのようなものが定番だが、とうとう集落をフェンスで囲うハメになってしまった。人間がまさに檻のなかで暮らし、動物たちがその外を傍若無人する。長野県伊那市。)


(Photo:植林ヒノキの苗木がカモシカに食害されないようにと、一本一本にネットがかけられていた。春になれば、このネットを外し、また秋になれば掛けるとう作業が数年間続く。長野県飯島町。)


(Photo:鼻のいいイノシシは人間のニオイを嫌うという。そこで、人間の髪の毛をこのようにストッキングに入れて、田んぼの脇に吊す。こうすればイノシシは田畑を荒らさないというが、効果のほどはいかに。長野県中川村。)


(Photo:サルは視力がいいから、案山子も思いっきりリアルなほうがよさそうだ。しかし、サルは視力がいいのでリアルそのものをニセモノ人間と見抜くことは必至であろう。長野県飯島町。)


(Photo:サルが畑に来たので大急ぎで案山子を立てたらしい。そして、光り物のCDも吊る下げて撃退を図ったが3日目には普通にサルがやってきた、とこれを立てたおばさんは笑っていた。長野県飯島町。)


(Photo:)廃棄漁網にイカ釣り針。獣害も憎きの極みだが過疎地の限界集落でもあり、人家からこの畑までは500メートル以上も離れていた。シカもイノシシも、それだけ離れていれば安心して出没してフェンスの不備をついて荒らしていくことだろう。兵庫県新温泉町。)


(Photo:サルはほんとうに賢いので、頭をつかって農作物を奪っていく。)


(Photo:優しいシカも、旺盛な食欲からもっとも嫌われる動物となりつつある。)


(Photo:イノシシは、ブルドーザーのように豪快に荒らしていくからこれまた嫌われている。)

野生動物たちの視線から、現代社会や人間の心理までを透視するイマドキの野生動物たちを取材した「写真ルポ」が出版されました。いまの時代に対するボクからの視覚言語でのメッセージです。

ぜひ自然界を理解するバイブルにしてください。
「人間なんて怖くない 写真ルポ イマドキの野生動物」=農山漁村文化協会(農文協)

144ページ 写真点数319枚 21.5cm×17.5cm  2400円+税

 

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コメント

  1. 宮本常一の「山に生きる人びと」を読むと、大昔から人びとは獣害に悩まされてきたようで、その中で猟師の果たした役割は大きかったようで獣害防御のための猟師も村に沢山居たようです。
    しかし百姓達も村に居る猟師に任せるだけでなく、相当なエネルギーと知恵を駆使したようです。シシ追い、シシ垣、シシ堀、柵etc
    中世末まではオオカミの横行はかなりのようだった模様。
    その後は、主にイノシシ、シカ、クマだったようです。
    猟師などにより野獣は奥地に追い詰められて人間世界が安定してきたようですが、近年また獣害が盛り上がってきたのは人間社会が変化したからですかね。

  2. 人間社会の変化は大きいと思います。
    とくに、現代人は自然のことを考えることができなくなり「家畜化」してしまいました。
    この無関心さが、獣害を大きくしていると思います。
    野生動物は、人間も含め相手の心理状態を見事に読み抜く能力をもっていますから侮ってはなりません。

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