宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

森の妖精の危機


(Photo:名前不詳小さくて可憐なキノコが朽木にいる様子はポエムのようです)

秋といえばキノコのシーズン。
信州の秋の山でキノコ採りを楽しみにしているファンはとても多いです。

この秋も、知人からさっそく声をかけられました。
「ガクさぁー キノコ要るかい?」
「キノコって、何…?」
「マツタケさぁー」
マツタケは嫌いではないけれど、高価だし買ってまでして食べることでもない、とボクはいつも思っています。
でも、知人がくれるというのでありがたく頂戴しました。

そのときに、
「ガクさぁ、困ったもんだぜ。
最近はニホンジカがマツタケを食べるようになってしまってよぅ、ほら、キノコの頭はこんな具合さ…」
そういって見せてもらったマツタケは、見事に一番美味しそうな頭の部分がなくなっているのです。
これには、ボクも驚きました。

近年は、ニホンジカたいへん増えてきて、高山植物を食べてしまったり、
若い樹木の新芽や木の皮はもちろんのこと、
毒草までも食べたりと、いろんな食害も起きてきています。
しかしまさかマツタケをこんなにも好んで食べているとは知りませんでした。
しかも、太くて立派な高価そうなマツタケだけを選ぶようにして食べているのだそうです。
国産マツタケは、巷間ではほんとうに高価で取引されています。
そんな人間社会をよそに、ニホンジカは秋の山野でマツタケを無料でグルメしていたのです。
 


(photo:マツタケ頭をシカに食べられて無残な形となってしまったマツタケ)

ところで、今年の山でのキノコ狩りと言えば、
どうしても心配になってくるのが、放射性物質が含まれていないかということです。
これまでもキノコは放射性物質を積極的に吸収すると言われてきました。
それはチェルノブイリの事故の後に、
野生のキノコや野いちごをずっと食べてきた人々に影響が出てきて問題になっていたのですが、
日本では遠く離れた世界の話だと他人事のように見て見ぬフリをしてきたのです。

しかしやはり、今回の原発事故で
東北地方の野生キノコから高濃度の放射性物質が検出されました。
こうやって大変な被害にあってみて初めて、
「自然界からのサイン」を感じることができるのかもしれません。
こんな事態が起こってしまってからでは遅いのですが・・。

たしかに、キノコの生育環境を見ていけば、それは理詰めで納得できることばかりです。
大気から降り注いだ放射能は、土の表面や落ち葉や枯れ木にたまるでしょう。
そしてキノコは、その最も放射性物質の一番溜まりやすい地表面を割って出てくる菌類で、
しかも成長が著しく早く、周囲の水分と栄養分を一緒に吸収しながら出てきます。
森の中でキノコに出会うと、まるで森の精に出会ったように嬉しくなりますが、
美しい森の妖精は、栄養分と一緒に毒も吸収しやすいという悲しい運命にあるようです。

人間が食べられない「毒キノコ」はとても怖いです。
しっかりキノコを見分けられる目がない場合は、
野生のキノコに安易に手を出してはいけないと、ボクはずっと注意してきました。

ところが、安全とわかっている美味しい野生のシメジやナメコや、マツタケのような高価なものにまで、
今度は放射能というやっかいな「毒」が含まれるようになってしまいました。
その毒は、毒キノコのように食べたからといってすぐに体調を崩すようなものではないかもしれません。
しかし内部被ばくで身体の中に入った微量の放射能が、
骨などに入り身体の中からずっと被ばくさせていってしまうという、
「毒」よりやっかいなものになってしまったのです。

地球が誕生して46億年、「新人」としての人間の誕生は200万年前と言われています。
そして、現代人とおなじような人間はせいぜい1万年ほどの時間しかありません。
それなのに、たった数十年の間に、「原子力」という、
自然界がこれまで経験したことのないエネルギーを、人間は作り出してしまいました。

そして今回の事故は日本人の全員が、事故の収束を見届けることはできないだろう、
とまでいわれている取り返しのできない大変な事故です。
まさに地球の規模から見たら、現代人の想像範囲を越えてしまった大事故です。
その影響が、キノコのような小さな物質にまで影を落としているのですから、
環境とはすべてがつながりあっていることに気づかされます。

これまでキノコの姿を見ながら美しい自然を感じ、「ポエム」の世界に浸ってきましたが、
これからはどうしても見る目が変わってしまいます。
そのキノコがどう生きているのかといった
生育環境の深いところにまで思いをはせなければならないのかもしれません。

食用キノコも毒キノコも、同じ運命にしてしまった人間の罪を感じます。
キノコと同じように、人間自身も地球上のほんの片隅に住まわせてもらっている「動物」に過ぎませんから、
まさに地球に保護されて生きている私たちです。
その大家さんである地球をこんなかたちで汚してしまったのですから、
大家さんが怒ってしまうかもしれません。
 


(Photo:クリタケ朽木から発生するクリタケは美味しい食菌だ)


(Photo:エノキタケ/初雪が降ってもでてくるエノキタケはとても美味しい)


(Photo:名前不詳/パンのように美味しそうにみえるけれど、分からないキノコは絶対食べないこと)


(Photo:テングタケ/猛毒をもち、人を殺してしまうことある危険なキノコ)


(Photo:ベニテングタケ/とても美しいキノコだけれど、これも猛毒をもっている)


(Photo:カラカサタケ/ほんと傘のようにみえるキノコで似たものもありときには中毒を起こすことも…)


(Photo:ハタケシメジ/人間の小便から生えるといわれているが、とても美味しいキノコ)


(Photo:アミガサタケ/名前のとおり編み笠を冠ったようなキノコで、畑などに大発生することがある)

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コメント

  1. 不明のパンのようなキノコは「ノウタケ」と思います。
    若いうちは中が白くてマシュマロのようです。
    食べることが出来ます。

  2. I’ve never seen Black Morel in Japan, — wow.
    Parasol, or ‘Lepiota procera’ is edible, but I’ve never found them here, Sitgreaves National Forest AZ.
    I wish if I could find Pine mushrooms under ponderosa, in my backyard, — why not ? not at all !

    no mad NOMAD, Diehardwalker.

  3. ■amitake さん
    「ノウタケ」ですか、ありがとうございます。
    キノコは、なかなか名前を覚えられません。
    写真に撮るのは好きです、が。

    ■Tonto Gata さん
    I’ve had many Pine mushrooms in Oregon 20 years before. It was very delicious. Some Japanese eats Black Morel, but I don’t.

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