宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

壮大な渡りをする鷹 サシバ


(Photo:子育て中のサシバです。カナヘビを餌に巣へ持ち帰ってきました。)

「サシバ」というカラスくらいのタカがいます。
このタカは、渡りをすることで有名です。
信州にも少数ですが春になると南の国から渡ってきて、山間の田んぼ周辺で子育てをします。
そして、秋になると本州を少しずつ南下していき、九州から越冬地の奄美大島や沖縄を経て、フィリピンやインドネシアの島々に渡っていきます。
サシバは、そんな壮大な渡りの繰り返しを太古の昔からやってきているのです。


(Photo:このような本州の山間地でサシバは子育てをします。冬は南へ渡ります)

サシバとは不思議な名前ですが、漢字で書けば「差し羽」となるようです。
喉の下のところに生えている羽根がちょうど弓矢の羽根を刺しているように見えるからだそうです。
その習性は、主にカエルやトカゲ、ヘビなどを主食にしていますがときには野鳥も捕まえます。
このため、日本で子育てするにはこれらの餌の多いところでないと繁殖できません。
そんな条件となる場所といえば、信州では棚田が山の上のほうまで続いているような山間地です。
しかし、近年は農業の近代化でこのような棚田がどんどん消えてなくなってしまいました。
いまから50年も前だったら、それこそ信州の山間地ならどこでもサシバが必ず見られたものです。


(Photo:山間の松林に巣をつくったサシバの夫婦)

そんなサシバが、棚田が放棄されてその跡地にはスギやヒノキが植林されてしまいましたから繁殖できずに姿を消していきました。
まあ、考えてみれば人間が稲作という農業を山奥まで展開していたことでサシバは間接的に餌場を提供されて「餌付け」をされていた時代が長く続いてきていたのです。
それが、近年の過疎化と老齢化で効率の悪い棚田が捨てられてしまったので、サシバにとっては大打撃を被っていると考えていいでしょう。


(Photo:ふ化10日ほどのサシバのひな)


(Photo:渡り中のサシバ。伊良湖岬にて)

なので、ボクは、サシバがどのくらい減ってきているのか興味がありました。
そこで、信州に近いところなら愛知県の伊良湖岬がサシバの秋の渡りのコースで有名なので、そこに毎年のように行って観察をしています。
それでも、伊良湖岬を通過するサシバは例年1万羽くらいです。かなり数は少なくなっていると思いますが、これだけ通過していればまずまずでしょう。

そして、ボクはさらにサシバの渡りを求めて沖縄は宮古群島にある「伊良部島」というところにも出かけています。
この伊良部島は九州から飛び立ったサシバが、この島で一晩羽を休めて泊まっていくからです。
だいたい一週間くらいかけてこの伊良部島をサシバたちがさみだれ的に一泊しながら通過していきますが、この島では2万羽強が訪れているみたいです。


(Photo:沖縄の伊良部島上空にできた「タカ柱」。このようにしてまとまって渡っていきます)

その昔は、空が真っ黒になるほどのサシバがやってきてたので、島の人たちにはサシバが食べられるということで毎年の渡りを楽しみにしていたそうです。
でも、近年はこれも「密猟」ということで禁止されていますので、サシバの保護運動がはじまっています。
こうして、サシバは本州を9月下旬くらいに旅立ち、九州へ集結してそこから東南アジアをめざすという壮大な渡りをするのです。
そして、4月になると、この逆コースをたどってふたたび日本の生まれ故郷に帰ってきます。
もちろん、この渡りの往復では力尽きて海に落ちてしまうものも少なくありません。
これも強いものだけが生き残って子孫を繁栄させることができるライセンスを得るために渡りという試練があります。

そんなサシバですが、一千羽くらいの数ならば日本に留まる個体もいます。それは、奄美大島や沖縄本島、宮古島、石垣島、西表島などで越冬しているからです。
このようなサシバは、沖縄などの現地にいけば必ずみられます。
日本の南西諸島でも越冬できるということは、冬でも暖かな地方にはバッタやカエルなどの餌があるからそこに留まれることができるのだと思います。


(Photo:沖縄伊良部島の海。越冬地に向かうにはこのような美しい海を渡っていきます。)


(Photo:島の上空に上昇気流ができると雲がわき、サシバにとっては絶好な渡り日和です。)


(Photo:この個体は冬になっても南へ帰らず、沖縄で越冬中です)

 
(Photo:沖縄の伊良部島にはこのようなサシバのモニュメント滑り台がありました)

 



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コメント

  1. サシバの話題に思わず嬉しくなりコメント差し上げます。
    わたしは筑波山の北に住む薪ストーブ愛好家ですが、この界隈にもサシバを多く見ることが出来ます。
    そして、実はわたしは今まで何度も彼らとともに空を飛びました。

    わたしはハンググライダーというスポーツを生業としておりますが、頻繁に彼らと同じサーマル(上昇気流)でともに飛ぶことがありました。
    サシバはあまり警戒するでもなく、ときにはこちらの翼の中にまで入り込んで、その美しい飛行の姿を数メートルの距離で見せてくれました。
    そして、いつしかそんなかれらの美しい飛行の姿に憧れを持つようになっていきました。

    同じようにサシバの美しい飛行の姿に魅せられたわたしのハンググライダー友達が静岡に住んでおり、彼は朝霧高原の地にて私と同じようにサシバとの飛行を楽しんでおりました。
    ただ、彼が私と違うのは、秋のある日に大群になって飛んでくるサシバたちと共に飛んでいることでした。
    おそらく関東平野界隈に住んでいたサシバたちでしょう。
    渡りのために伊良湖岬に向かうサシバたちは、その前に決まって強い上昇風の生まれる朝霧高原の天子岳に集まるようで、わたしの友人はそこに集まったサシバたちと共に飛ぶことを何より楽しみにしておりました。

    私たちはそんな夢のような時間を与えてくれたサシバたちにとても感謝しています。
    そして、彼らが住みやすい田んぼや里山のある環境を作って行くことが、実はわたしたちにとっても、そこが住みやすくて豊かな暮らしが出来る場所になっていくのではないかと、最近思うようになっています。

  2. みっちゃんさん

    楽しくなるカキコミをありがとうございます。
    サシバと一緒に飛べるなんて夢のような世界ですね。しかも、サシバが翼の中にまで入ってきて数メートルの距離…とは。
    このたびのカキコミで一緒にサーマルに入れば警戒しないという新たな発見の報告に感謝です。
    朝霧高原でのハンググライダーは存じ上げています。
    飛び立つときには、確か現場までトロッコレールで登っておりました。
    その方たちも一緒にサシバと飛んでいるとは驚きですが、今秋はいちど朝霧高原に観察にでかけてみたいと思います。
    ご報告ありがとうございました。

  3. サシバの渡りは、GPSを付けられている個体が何羽か居て、日本から去っていくときも渡ってくるときも移動中の経過が紹介されているサイトがありましたっけ。
    そちらのサイトで拝見していた時には、中国大陸を経てかなり大回りをしているグループもあり、3つくらいのルートがありました。全員が同じコースをとっていたら、何かあったときには被害が甚大となってしまいそうですから、何かがそういう選択をさせているのでしょうね。それを本能と呼んでしまってよいのか? あるいは学習もあるのか? そもそも本能とは何んなんだろうと思ったりします。

     

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